初めての中国旅行では、現代中国の新しさとダイナミズムに、終始、圧倒され続けました。
悠遠とか茫漠というイメージで語られることの多い中国ですが、現代の中国、とりわけ巨大都市とそれを結ぶ航空機や高速道路の風景は、どこまでも新しく迅速で鋭角的であり、それが国家の強烈な自己主張であることを、露骨に表現している感じがしました。昨年の北京オリンピックと来年の上海万博は、中国の「新」と「動」の象徴です。しかしそれは、いままでの中国を内包したまま、突き進んでいるようです。
オリンピック後の北京市では、やや落ち着きを取り戻したとはいえ、未だ建設は盛んに行われていました。高層のオフィスビルやマンションが、街のあちこちで造られていました。第一期分完売、第二期募集中と推定される簡体文字を大書した看板が、建設中のマンションに掲げられています。数年前の東京の品川や汐留の高層ビル建設ラッシュと似た様相を呈しています。鄭州市や西安市も、北京市と同様、あるいはもすこし過激に、高層ビルが建設され続けていました。
しゃれた高層マンションの手前には、旧来の労働者住宅が建っていました。上海市の2010万博会場は、来年5月オープンを目指して、間に合うのかちょっと心配な程度の進捗状況でしたが、旧住宅1万戸以上を立ち退かせた広大な会場予定地では盛んに、大型クレーンがうごめき建設労働者が働いていました。万博スローガン「城市、譲生活更美好 Better City,Better Life」とマスコット「海宝ハイパオ」の大看板が、建設現場は勿論、上海市内各地でみることができました。北京空港での入国最初に出迎えてくれたのも、海と人(文字)をイメージした、この海宝君でした。立ち退かされた1万戸の住民たちは、何処へ引っ越していったのか、気になるところではあります。
「新」と「動」の中国を表徴するもうひとつは、高速道路建設です。今年の年初に6万qを超え、10万qの米国についで、世界2位ということです。既に、シルクロードの地にも革命の聖地延安にも、北京から高速道路で直行できるのです。片道3車線の高水準の高速道路上を、ハイグレードの新しいトヨタやアウディが、私たちの乗ったキャラバン車を一気に、追い抜いていきました。高速道路は、対面交通でないし交通量もさほど多くないので、後部座席に座った私たちは、ただ快適なドライブを楽しんでいればいいのですが、これが一般道路になると、そうはいきません。時に、恐怖のどん底へと落とされることがありました。
明の十三稜から北京への帰路、華北の張家口と北京を結ぶ、片道1車線の国道を走っていたときです。黒光りした石炭塊や大量の鋼材などを運搬する大型トラックが、長蛇の列をなして疾走していました。圧倒的なパワーを皮膚で感じました。そんな時、反対車線のトラック列が途切れた瞬間、私たちのキャラバン車が鋭く、追い越しをかけました。しかし、対面から大型トラックが、こちらに向かって爆走してきているではないか。我が運転手君、チキンレースよろしく、可能な限り距離をかせいだ後、巧妙にもとの車線に戻りました。
市街地道路での運転も、実に巧みでした。乗用車とトラックとが、時には小さな電動自転車も交じって、先を急ぐために執拗な車線変更と熾烈な車線取り競争を展開していました。衝突寸前までギリギリ凌ぎあって、勝負が決まった瞬間、負けたほうが潔く退き、勝者が堂々とその前を走り抜けていきます。一対一の競争は見ることができましたが、一対二とか一対三になると恐ろしくて目を背けざるを得ません。中国のドライバーは恐らく、世界一の運転技量を持っているのではないかと思いました。
歩行者も、自動車に負けていません。信号が赤にかかわらず、自動車がやってきても、平気で横断します。自動車と自動車の間を縫うように、渡っていくのです。高速道路では、こんな光景も、眼にしました。インターチェンジに近づいた頃、数人の男が10メートル位の間隔で、文字を書いた30p四方のボール紙を掲げて、高速道路の路肩に立っていました。ガイドに聞くと、市中に入ってからの道案内役の売り込みをやっているとのことでした。交通事故死9万人は世界一ですが、今後、自動車の保有台数の増加にともなって、さらに死亡者数が増加することが、懸念されます。
旅先で見たあるいは体験した現代中国の新しさとダイナミズムは、内に一種の危うさを抱えながら奔走しているようですが、それが「城市、譲生活更美好 Better City,Better Life」に向けての不可避のプロセスなのでしょうか。今回の旅行では、農村と農民に触れる機会は、ありませんでした。いわゆる辺境といわれる地域にも行ってません。北京、上海という巨大都市や鄭州、洛陽、西安という大都市での見聞だけで、中国全体を推し量ることは、ナンセンスといわざるを得ません。
しかし、すくなくともこれらの都市での新しさとダイナミズムは、現代中国の一側面であることは、間違いはありません。今後、中国をより深く知るためには、農村と辺境の地に、足を伸ばす必要があると思います。さて、挑戦してみるか否か、しばらく考えてみたいところです。
(1) 龍の国・中国の旅
(2) 古代中国を行く−青銅器時代へ−
(3) 人、人、人・・・中国の旅
(4) 茶を飲む・中国の旅
(5) 現代中国の新しさとダイナミズム
(6) 古代中国が蘇る・遺跡発掘現場へ
(7) 奈良の仏像のふるさと・龍門石窟