今回の旅の大きな目的であった弔問を無事終えた帰路、多くのチベット人が生活しているボダナートに立ち寄りました。
昔と違って賑やかな市街地域となっており、道路はここも大勢の人とオートバイや小型車で大混雑でした。
ボダナートはカトマンズの町から東へ約7キロの所にある、高さは36メートルの南アジア一大きな仏塔を持つ寺院です。何世紀にも渡ってチベットとの交易のルートに位置していたため、チベット商人はここで休み、ここまでの無事を感謝し、また帰路の安全を願ってここで参拝してきたと言われています。
1950年代より、中国から亡命してきたチベット人の多くがボダナートの周りに住むようになり、チベット寺院も多く作られたことから、いつしか「リトル・チベット」と称されるようになりました。
仏塔は真上からみるとそれ自体がマンダラになっており、四層の台座は地、半球体のドームは水、目が描かれた部分と十三層の尖塔は火、頂上の円形の傘は風、先端の尖塔は空、というチベット仏教における宇宙を構成する五大エネルギーを象徴しているとのことです。ドーム下にある108のくぼみにはひとつひとつに仏像が彫られていました。
仏塔回りの寺院や土産物店が並ぶ一角で、1901年に仏典の梵語原典とチベット語訳を入手しようとして、日本人で初めてチベットへの入境を果たした河口慧海の記念レリーフを発見。「大チベット展」に出品するため、東北大学所蔵の同コレクションの再調査とリスト作りで苦労したことが懐かしく思い出されました。
午後からは喪中行事で急用のサキャ氏と別れ、カトマンズ盆地を一望に見渡せるスワヤンブナートへと出かけました。平地から約7〜80mの小高い丘にある仏塔が現在修理中でしたが、大勢の観光客や巡礼者で賑わっていました。その一方で物乞いする子供や親子の姿がやたら多く、心苦しい思いをしながら階段を昇り切りました。頂上からの盆地の眺めは昔と比べてすっかり緑が少なく、ぼんやりと春モヤに包まれていましたが、それでも下から吹き上げるそよ風が心地よく、なかなかの絶景でした。
13世紀までにはカトマンズ盆地で最も重要な仏教聖地となり、15世紀にはイスラム教徒により破壊されましたが再建され、20世紀の後半には中国から来たチベット人たちが周辺に住みつくようになったと言われています。また、この寺院は別名「モンキー・テンプル」とも言われ、猿の姿をいたる所で見かけました。
カトマンズがまだ湖であった時代に、この地にやってきた文殊菩薩が湖を切り開き、カトマンズを盆地に変え、大日如来を讃えて、スワヤンブナートを建てたという伝説が残っており、約2,000年の歴史を誇るこの仏塔はネパールで最も古い寺院で、世界で最も壮麗な仏塔の一つとされています。境内で見られる建物は多様で、子供を護る神様を祀るハリティ寺院やチベット仏教のカルマ・カギュー派の僧院、インドのシカラ様式の仏塔など、宗教の混在するネパールならではの寺院と言えます。
小一時間かけたスワヤンブナート見学の後、旧王宮のあるダルバール広場へと向かいました。世界遺産にも登録されたカトマンズ峡谷を代表する地区の一つで、海外からの旅行者には入場料が課せられました。勝手ながら歩行者天国を期待していたのですが、ここも大勢の人々が行き通い、オートバイや人力車の警笛が鳴り響き、広場全体がまるで大きなバザールのようでした。
旧王宮や特色あるヒンズー寺院の彫刻などを撮影しながら広場をしばらく進むと、大勢の人々が寺院前の広場で集会をしており、反対側の寺院の階段に登って様子を見ていると、隣の小父さんが片言の日本語で話しかけ、ネパール共産党の政治集会であることを教えてくれました。
大音響のスピーカーからは、まるで明治時代に自由民権運動で活躍した川上音二郎の「オッぺケぺー節」のような名調子の演説が流れ、聴衆は熱気に包まれていました。王政崩壊後も生活改善が進まないため、共産党の単独政権を願う人々と、象徴としての王政復帰を願う人々との間で対立が深まっており、5月に迫った共和制憲法制定のための暫定議会の解散を睨んだ駆け引きが活発化しているとのこと。
旧王宮広場を通り過ぎ、ホテルのある北に向かって、夕方のラッシュ時間と重なるタメルのバザール街を散策することにしましたが、買い物客と観光客でごった返す中を進む内に方向感覚がなくなり、迷路の前後左右から迫り来るオートバイや人力車、小型タクシーの警笛と排気ガスで、頭がボーとしてきました。喧騒の中にありながら、意外にも欧米人の観光客は平気な様子で、ショッピングを楽しんでいるのには驚きでした。
この日の夕食は当初、タメル地区にあるレストランでとることにしていましたが、心身ともに疲れ切ったため、シャワーを浴びた後、冷たいビールを味わいながら、ホテルのレストランでとることにしました。地図もなく繁華街をさ迷ったことに後悔しきりでした。
チベット寺院の見学
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