この日は気温31度の真夏日、晴れの朝。午前7時からの朝食を済ませた一行は、各自、緑と湖に囲まれたホテル周辺を散策したり、リゾートホテル内の豪華な設備を見渡したりして朝のひと時を過ごしました。全線ガイドの劉さんは上海での地下鉄移動で想定外の時間を要し、前夜遅くにホテルに到着したとのことで、この日からの合流となりました。
午前9時30分、一行はホテル連泊のため身軽な格好で、良渚遺跡の責任者・王寧遠先生の案内で良渚遺跡区にある「浙江省文物考古研所・良渚遺跡工作処」へと向かいました。良渚文化村一帯は緑に覆われた一大リゾート地で、広々とした庭園や豪華な別荘らしき建物やマンション等があちこちに見られました。一行を乗せたワゴン車は立派な良渚博物院の建物前を通過し、やがて国道を右折して、野菜や果樹畑の広がる小高い丘へと進んで行ったところに工作処がありました。
良渚文化は、約8000年前の河姆渡文化や跨湖橋文化の後を追う長江下流域の新石器文化で、長江文明の一角を担っています。江蘇・浙江両省にわたる太湖周辺の長江デルタで、長江と銭塘紅に挟まれた地区に遺跡が集中的に分布しており、約5300〜4500年前のもので、その中核となるのが莫角山遺跡のある「良渚古城」を中心とした良渚遺跡区です。同遺跡区は1936年に最初の発掘が行われ、1959年に良渚文化と命名され、1998年に中国重点文物保護単位に指定されました。更に、2007年の発掘調査によって良渚古城を囲い込む城壁が確認され、祭壇と城壁を持つ古代都市遺跡であることが判明しました。
午前10時過ぎ、工作処の会議室にて、王寧遠先生による「良渚文化発見と研究」というテーマで約1時間にわたり「特別講義」が行われました。特別講義の概要は次の通りです。
王先生の特別講義を終えた一行は、工作処の別棟にある発掘文物の修復現場に案内されました。当時のゴミ捨場と思われる個所からは多量の土器類の破片や火事で燃えたような大量の籾や穀物類が炭化状態で発掘されており、いくつものビニールケース一杯に収納されていました。一行は五千年前の黒い米粒を摘んでその感触を確かめていました。床には土器類の破片が無造作に置かれ、棚には修復済みの土器類が多数並べられていました。
次に工作処の脇道に沿って、祭祀基壇のあった莫角山遺跡へと向かいました。現場では数カ所で現在も発掘作業が行われており、小高い丘からは四囲の城壁と思しき土塁が見られました。東側の土塁付近にはゴミ捨場があり、北側の山岳地帯には構築された治水のためのダムや水利系統があったという方向を王先生の説明で確認しつつ、良渚古城全体の規模を体感することができました。
続いて一行は、幅狭い農道を車で北へと進み、全体を緑のプラスチック屋根に覆われた北城壁遺跡展示区に案内されました。城壁の最下層には基礎となる敷石が頑丈に並べられ、その上に何層もの土塁が積み上げられた五千年前の版築工法跡を見学する事ができました。
更に11基の墓地が発見された反山遺跡の位置を確認するため、一行は城壁の西南側に位置する工場へと向かいました。ここは、地元の企業が反山という荒地に工場を拡張するため、事前に浙江省考古研究所が発掘作業を進めた結果、6カ所の10m四方の深い穴の中に11基の貴族らしき墳墓が発見され、多数の玉器が出土したことで知られています。現在は残念ながら工場の敷地内に埋め戻されており、ここでは通過しただけでした。
正午過ぎ、一行は一旦、王先生と別れて余杭区良渚鎮にある良渚大酒店のレストラン「陽光餐庁」での昼食タイムとなりました。この日は暑く、中国の薄いビールで乾いた喉を潤おしつつ、野菜を主体とした地元料理を味わいました。
午後2時、再び王先生の案内で特別見学するため、「良渚博物院」に向かいました。良渚博物院は2008年に開館された全体が玉石作りのような重厚な建物で、夏休み中とあって大勢の見学者で賑わっていました。一行は本館裏側の館員専用入り口から入館しました。
全体が石壁に覆われた豪華な本館ロビーで王先生と再合流し、特別見学が始まりました。本館は基本的に良渚遺跡区の玉器・陶器・石器・木器等の発掘遺物と往事の生活再現パノラマが展示の中心となっており、三つの展示室から成り立っています。第一展示室の「発現求真」は、1936年の最初の発掘から2007年の城壁発掘にいたる考古学的成果を展示するとともに、陶器・石器などの発掘遺物が展示してあり、本遺跡と良渚文化の知識が得られるようになっています。第二展示室の「良渚古国」は、農耕・陶器制作・玉器製作・木材加工・建築・紡織などの生活パノラマ展示があり、その中心に祭祀基壇建設(莫角山)のパノラマを見ることができます。高みに「王」が立ち、この後ろには従者が控え、指示を与えて人々が建設に励む姿が示されております。「王」の後方には武器を携えた兵士が控えています。また、玉管串などの装飾品も展示してあり、これらによって往事の社会と人々の生活が分かるようになっていました。
第三展示室の「良渚文明」は本遺跡発掘遺物を基本として、玉器・陶器・石器・木器・織物等、千余点を展示されています。特に、本遺跡は玉器に優れ、各種の玉器が多数展示されており、有名な「玉j」の四隅には神人獣面紋の線刻装飾がなされており、良渚遺跡の遺物に見られる大きな特徴となっています。
約2時間をかけた王先生の解説付きの特別見学によって、一行は良渚遺跡から発掘された多彩な玉器類をはじめとする貴重な文物類を鑑賞するとともに、約五千年前の稲作のルーツとしての「良渚文化」に対する理解を一段と深めることができました。
午後4時半、良渚博物院の見学を終えた一行は、王先生に感謝しながらお別れをし、一旦、ホテルに戻って休憩タイムとなりました。各自、思い思いのひと時を過ごした後、午後7時半、ホテル近くの看板もない素朴な地元餐庁での夕食となりました。この日は早めに夕食を切り上げ、翌日のチェックアウトに備えました。
2日目 「特別講義」&「良渚博物院」「良渚遺跡」
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