8月19日、薄曇りの涼しい空模様。一行は午後8時30分にチェックアウトし、特別講義が行われる北京大学考古文博学院に向かいました。バスは北京大学の西門から入り、緑多いキャンパスを巡りながらサックラー博物館に隣接した、古建築風の考古文博学院に到着、2階の特別会議室に案内されました。特別会議室は、徐先生の研究室の隣にあり、重厚な木製机の講師席を取り囲むように席が並べられ、まるで学術会議のようなアカデミックな雰囲気でした。
午前中の「特別講義」は、今回視察する重点遺跡に関する二つのテーマで行われました。午前9時からは、稲畑先生の通訳で、社会科学院考古研究所教授の許宏先生による「中国古代の都市遺跡について」。同氏は2004年に中国最古の王朝と言われる「夏王朝」のものと推測される古代都市遺跡が発見されたことで有名な、河南省偃師市の「二里頭遺跡」発掘調査隊の隊長で、中国古代都市遺跡研究の第一人者です。今回視察する「燕下都遺跡」「遺跡」「殷墟」「鄭州商城」を始め、「二里頭遺跡」等、古代都市遺跡の変遷やその特徴について、詳しく説明がありました。
午前10時からは、張丹さんの通訳で、北京大学考古文博学院教授の権奎山先生による「華北の陶磁器遺跡について」。同氏は唐代三彩窯跡の発掘を始め、中国各地に点在する陶磁器遺跡の発掘調査を幅広く手掛けられおり、中国の陶磁器遺跡研究の第一人者です。今回視察する「定窯遺跡」「磁州窯遺跡」を始め、「汝窯遺跡」「鈞窯遺跡」等、華北に点在する陶磁器遺跡の特徴や発掘状況について、詳しく説明がありました。
両教授ともに、今回のサマーキャンパスで視察する重点遺跡を中心に、パソコンに取り込んだ発掘現場での貴重なデータや写真を駆使され、我々素人にも分りやすく、懇切丁寧に解説していただきました。それぞれ当初の予定時間を上回る密度の濃い講義に、受講者一行は驚きとともに感謝の念でいっぱいでした。
特別講義の後、西門前にある学生レストラン「暢春園」での昼食となりました。権先生もご一緒され、引き続き陶磁器に関する質疑応答がありました。昼食後、いよいよ古代中国の舞台『中原』に向かって、日中の両先生、ガイドの張丹さんを含めた総勢9名による考古学の「移動教室」がスタートしました。
午後1時半、バスは北京市内を一気に南下して石家荘に至る「京石高速」へと進み、「燕下都遺跡」のある河北省保定市易県へと向かいました。走行距離は約173キロメートル、約2時間半の旅です。(注:走行距離は中国旅行社総社側の推定距離です)
車窓からは、片道3車線の高速道路を猛スピードで行き交う大型トレーラーや乗用車の列とは対照的に、沿線の広大な大地には、緑の絨毯を敷いたようなトウモロコシ畑と農道に植林されたポプラ並木が幾何学的に延々と続き、改めて経済発展のエネルギーとともに、中国大陸の自然エネルギーを感じさせられました。この時期、河北・河南地方一帯の畑はトウモロコシ一色でしたが、春には麦秋の季節で黄金の小麦一色になるとのことでした。
【豆知識】
中国の高速道路の総延長は、2009年末現在で約6万5千キロメートルに及び、今やアメリカに次ぐ世界第二位の高速道路ネットワークとなっています。
バスは「京昆高速」を保定市郊外の易県で下り、現地ガイドを乗せて西へと向いました。やがてトウモロコシ畑のど真ん中に不自然な土台が見え隠れし始め、それが最初の重点遺跡「燕下都遺跡」でした。
午後4時過ぎ、一行は先ず「燕下都研究所」に立ち寄り、収蔵・修復中の文物を直に触れながら見学しました。但し、ここには一部だけが収蔵されており、重要な文物は河北省博物館に収蔵されているとのことでした。次に宮殿台基の一つ「武陽台」へと向かいました。
トウモロコシ畑の中の農家が数軒点在する一角に、黄土むき出しの小高い丘がありました。雨上がりの滑りやすい急坂を昇りつめると、そこは草野球ができる程の広い台地となっており、放牧されたロバの親子がのんびりと夏草をついばんでいました。夕もやの中、遠くに「望景台」や「老姆台」らしき土台がぼんやりと浮かんでおり、「燕下都遺跡」の規模の大きさを体感することができました。足元には瓦の欠片がいくつも散らばっており、一行は早速、文様付きのお宝探し。徐先生に戦国時代のものだとのお墨付きをもらって大喜びでした。ふと気がつくと、ふもとのバス周辺には地元の親子連れらしき人々が何人も集まって、我々の行動を珍しそうに見つめていました。
次に、西南に位置する城壁群の中でも、最も保存状態が良いとされる城壁へと向かいました。他の城壁は永年にわたって雨や植物に浸食されて面影もありませんが、ここは保存のために大屋根が施されており、当時の版築の様子がくっきりと見受けられました。剥き出しの煉瓦は今にも崩れそうでしたが、手で叩いて見ると案外と頑丈で、固い岩石のようでした。
午後5時半、燕下都の遺跡群を見学した後、現地ガイドと別れ、再び「京昆高速」を経て、南南西に位置する保定市へと向かいました。約130キロメートル、約2時間の旅です。
高速道路を下り、保定市の市街地に向かうと、発展する地方都市を象徴するような高層ビル群が立ち並んでいました。夕方のラッシュ時で乗用車や電気自転車が行き交い、大勢の人々で賑わっていましたが、どこか古都らしい雰囲気が残り、落ち着いた街でした。
午後7時半頃、やや疲れ気味の一行は、市内のレストラン「奇芳閣」に到着。しかし、目的地一帯のビル群は解体工事中で、運転手とガイドさんは大慌て。見知らぬ土地へのツアーということで、予めGPSをバスに取り付けていたとのことですが、どうも同名のレストランが3カ所もあるとのことでした。電話連絡で何と店は見つかり、一安心でした。一行は丸テーブルを囲み、先ずは冷えた飲み物で乾杯し、スクラップ&ビルドの激しい街中の印象やバスツアー・第一日目の感想等を語り合いながらの遅い夕食となりました。午後9時半、市内中心地の四つ星ホテル「中銀大廈」に到着しました。
【豆知識】
保定市は河北省の旧省都で、現在の省都である石家荘と北京とほぼ中間地点にあります。約2300年の歴史を有する古都で、清の時代には直隷総督署が置かれていました。
2日目 「特別講義」&「燕下都遺跡」 視察
7日目 「河南博物院」見学・「鄭州商城」 視察 & 「修了式」兼「歓送会」
「北京大学サマーキャンパス2010」にて訪問した重点遺跡の視察報告、および補足の解説をまとめたレポート(PDFファイル)を作成いたしました。下記リンクよりダウンロードできます。
「北京大学・サマーキャンパス2010」重点遺跡レポート (PDF/1.77MB)
株式会社 毎日エデュケーション
生涯学習事業部 「毎日エクステンション・プログラム」 係
〒103-0025 東京都中央区日本橋茅場町2-12-10
PMOEX日本橋茅場町 H1O日本橋茅場町 207
電話番号 03-6822-2967