この日は、一行にとっては興味ある中国高速鉄道を利用しての西安行きとなりました。これまでの「北京大学サマーキャンパス」での移動教室では、北京を起点にしつつ、中国大陸を南の鄭州・洛陽まで長距離バスで陸路を縦断する“中原の旅”、西の敦煌から西安に至る長距離バスと寝台列車による“仏教東進の旅”、更には内モンゴル自治区から遼寧省・朝陽を経て北京に回遊する長距離バスでの“遼・元王朝遺蹟を訪ねる草原の旅”で、途中、広大な中国大陸のあちこちで敷かれた高速鉄道網を疾走する列車や建設工事中の風景を見かけましたが、乗車する機会は一度もありませんでした。
午前6時からの朝食を早々に済ませた一行は、まだ薄暗い中、午前6時半にチェックアウトを済ませ、中国旅行社総社の責任者・李雋さんの見送りを受けて北京西駅へと向かいました。曇り空、気温8℃の肌寒い朝、通勤ラッシュ前の三環路を西に向かって順調に進みましたが、北京西駅に近づいた時点で大渋滞となり、駅前で待ち合わせの劉建軍さんと合流できたのは午前7時半を過ぎていました。広い北京西駅構内は既に大勢の利用客で混雑しており、スーツケースをポーターに預けて高速鉄道専用の待合室で一休みしました。
午前8時、改札が始まり、ポーターの先導で“和階号”に乗り込みました。もともと日本の新幹線をモデルに開発された車両は日本の新幹線とほぼ同じ装備で、一行は向かい合わせの6人掛けにして着席しました。西安に向けてG653列車は、北京西駅を定刻08:21に出発、次第にスピードを上げながら途中、涿州東、石家庄、安陽東、鄭州東、洛陽龍門、三門峡南、渭南北の7駅を経て、14:11西安北駅に到着。延べ1,216キロメートル、約5時間半の長旅となりました。
時速300超キロメートルで疾走する車窓からは、朝モヤかスモッグか分からない霧に覆われた広大な中国大陸の平原が延々と続いていました。“中原”の中核都市・鄭州辺りまでは沿線の彼方まで収穫を終えたトウモロコシ畑や小麦畑が広がり、洛陽から三門峡辺りに至ると一変して丘陵地帯に突入し、濃霧に包まれた山岳地帯の田畑やトンネル、鉄橋が次々と現れて、黄土高原に特有の“窰洞”(ヤオトン)と呼ばれる頑丈で気温差の少ない横穴式住居も所々に見え隠れしていました。長旅の途中、男性陣は長老が持ち込まれたオールドパーと日本の摘みを肴にしながら、様々な話題で盛り上がりました。
濃霧に包まれた西安市内に近づくと30〜40階建ての超高層マンションやオフィスビルが立ち並び、新しい西安北駅は地下鉄の終点にもなっていて、駅前広場では大規模な地下街工事が行われ、駅周辺は郊外のニュータウン造成中の様相を呈していました。
午後2時過ぎ、混雑する西安北駅の改札出口で現地ガイドを探していると、先方から近づいて来る陝西中国旅行社のガイド・郭斌さんを発見。初対面の挨拶後、新しい幅広道路を南に向かい、この日から4泊するホテル「唐華賓館」へと向かいました。当初、西安のホテルは「西安古都新世界大酒店」を予定していましたが、同じ四つ星ホテルながらも大雁塔東隣に位置し、陝西省考古研究院にも近いことから、「唐華賓館」に変更されました。伝統的な唐風の建物が特徴で、ロビーの上壁四面には田村能里子の壁画(1978〜88年作「二都花宴図」)が飾られ、中庭の池にはジャクや白鳥が遊び、長期滞在者向きの落ち着いた雰囲気のホテルとして知られています。
陝西省考古研究所への訪問時間が午後4時半になったことから、一行は一旦、ホテルにチェックインを済ませ、列車の旅の疲れを癒すため、1時間ほど休憩してから訪問することにしました。しかし、西安城壁の北門から中心街に入り、大雁塔に向かって進むにつれて事故に伴う大渋滞に巻き込まれ、ホテルには着いたのは結局、午後4時近くとなり、一行は急いで身支度をして出かけることになりました。
午後4時半、今回の西安訪問に当たってお世話になった焦南峰先生を表敬訪問するため、陝西省考古研究院に到着。研究院の玄関前には会議中だったという焦先生が足早に現れ、満面の笑顔で一人一人と固い握手を交わして一行を熱烈歓迎してくれました。先ず、焦先生の案内で、改装された研究院陳列室を見学しました。3年前にも見学しましたが、レイアウトや広さも一新され、新たな修復済みの文物も数多く展示されていました。研究院の目玉とも言える唐李陲の冠飾や各種文物の他に、周原遺跡の発掘物と工作現場のパネル等が展示してあり、その前で3日目には「周原遺跡」を見学するとの発言がありました。
急ぎ足でひと通り陳列室を見学した後、ドイツとの技術提携で提供されたという精密機器を使い、現在修復作業中の室内を見学しました。女性スタッフから、青錆びた大型鳥類の青銅器や壊れた馬陶俑の修復・復元方法等について説明を受けました。更に、焦先生は一行をご自分の研究室まで案内され、棚やデスクには専門の資料や書籍が乱雑に積み上げられて研究真っ最中のような部屋でした。翌日から視察する工作地については、歓迎夕食会で説明するから、早くレストランに行こうとのことで、午後6時、一行は焦先生とともに歓迎夕食会の「天龍宝蘆素食館」へと急ぎました。
「歓迎夕食会」には、焦先生をはじめ、翌日から現地視察でお世話になる陝西省考古研究院の王志友先生、中国社会科学院考古研究所の劉瑞先生、他2名の研究所スタッフの方が参加されました。早速、焦先生の発声で、一行の西安訪問を熱烈歓迎するとともに、明日からの工作地視察が成功するよう祈念し、白酒で乾杯をしました。焦先生からは、今回視察する3カ所の工作地では午前中、遺跡を視察し、午後から発掘の実習をするとの説明があり、3日目は徐天進先生からの連絡で予定を変更し、現在、北京大学考古文博学院の実習生達が発掘中の「周原遺跡」に行くとの話に、一行の期待は一段と高まりました。既に60歳定年で現役引退されている焦先生ですが、返って現役時代よりも調査研究に忙しく、連日、多忙な日を過ごしていると笑顔でお話しになっていました。
午後8時、翌日からの現地視察に備えて、賑やかな歓迎夕食会は惜しみながらもお開きとなりました。ホテルに戻った一行は、高速列車での長旅の疲れを癒すとともに、翌日からの視察に備えて、西安1日目の夜は早めの就寝となりました。
2日目 「高速鉄道の旅」&「陝西省考古研究院」表敬訪問
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